Rob Reiner監督『The Bucket List』(邦題:最高の人生の見つけ方)

最高の人生の見つけ方 [Blu-ray]

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英語で「死ぬ」ことを「kick the bucket」というそうな。それで、バケツを蹴っちゃう前にやっておくべきことを書き出したのが「バケツリスト」というわけで、余命半年の二人の老人が、金に飽かせていろいろやるという、実にそれだけの映画。
もちろん、「お金では買えない価値がある」的気づきは、クリシェ的展開として形だけは入っている。でも形だけなので、感動もクソもない。むしろ嫌悪感が残る。
これは一つにはCarter役のMorgan Freemanがミスキャストということがある。この人は、最初から達観した仙人みたいな顔なのだ。だから、基本的に主役には向いていない。主役というのは成長しなければならないが、仙人は成長しないからだ。(『Invictus』でも、自らは動かされず、ただ他のものを動かすだけの神様的存在感を発揮していた。)他方、Edward役のJack Nicholsonは成長できる子だと思う。
さて、この作品のモチーフは、ホモソーシャリティと、その裏面としてのミソジニーである(きっぱり)。ともに余命半年を宣告され、「じゃあさ、死ぬ前に世界一周行こうぜ! 金ならあるからよ!」と盛り上がっているところに、Carterの妻登場。「病院移りましょ! セカンドオピニオンよ!」 これはまったく通常の反応だと思うのだが、Carterは激しく逆ギレ。せっかく盛り上がってたのによ!
というわけで、余命半年を宣告されてから、3ヶ月間、妻や子供たちを放っておいて、自家用ジェットで世界中を遊びまくり。ちょっと話がそれるが、Carterは自動車の修理工をしているが、若い頃歴史学者を目指していたほどの物知り博士である。それが、死ぬ前に行ってみたいところというのが、ピラミッドとかタージマハルとか、そんな観光スポットでいいの? 万里の長城をバイクで走るとか、ほんとにしたかったの? しかも本当には行ってないよね、その合成映像。実のところ、ちゃんとロケをしていたら、そこそこにはいい映画になっていたと思うのだが、ありとあらゆるシーンがCGで、なんというか爽快感がない。テレビのコントみたい。ピラミッドを背景に会話するシーンとか、失笑ものである。この点では、セカチューの方が100倍マシだ。
それで、3ヶ月も放っておいて、香港でEdwardが差し向けた娼婦と話したのがきっかけで、帰宅を決意。ここが、Carterの方の成長を描く場面になっている・・・はずなのだが、全然描けていない。男同士の遊びに飽きて、セックスしたくなったから「俺もう帰るねー」でしかないだろこれは。そこには反省というものがないから成長もない。帰宅すると、特に何事もなく、謝るでもなく、家族みんなが受け入れてくれる。余命半年で3ヶ月放っておくってことは、人生の最期に必要な人たちじゃないという宣告をしたのと同じであって、奥さんにしてみたらこれほど酷い裏切りはないわけだけど、そこはほんと華麗にスルー。そして、結局セックス直前で倒れてそのまま死亡。
葬式では、Edwardが、3ヶ月間ほんまに楽しかったわー、という感動の弔辞を捧げる。3ヶ月前までは見ず知らずの他人だったのに。というわけで、おもむろにリストの紙を取り出すと、「Help a complete stranger for the good」の項目を「済」ということで線を引いて消す。もちろん弔辞だから、CaterがEdwardに善いことをしてくれた、という意味なのだろうけど、相補的な意味合いは読み取れてしまう。3ヶ月放っておかれた奥さんの心境やいかに。
というわけで、同じような主題の『死ぬ前にしたい10のこと』が気になる今日この頃(未見)。