Roland Emmerich監督『10,000 BC』(邦題:紀元前1万年)

紀元前1万年 [Blu-ray]

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時代考証ということにこだわる必要はないけれど、タイトルがタイトルだけに、いったい12,000年前の人類はどんな暮らしをしていたんだろう? 食べ物は? 社会は? 人間関係は? 性愛は? といった点が気になってしょうがない人が観に行く映画のはず。そういう点からすると、これくらい拍子抜けの作品もないだろう。Emmerichのいつものあれが、舞台設定を変えてまたやられているだけの話。
いや、紀元前1万年のアフリカで、風呂入ってないだけの白人が、原題の英語を普通にしゃべってても、それは映画的フィクションとして許されていい部分だとは思う。『はじめ人間ギャートルズ』だって日本語しゃべるわけだし。ところがこの映画では、最初から最後まで、全編にわたってこれでもかこれでもかと、やたら丁寧なナレーションが、英語で入る。それだけ説明してくれるんだったら、登場人物たちは英語でなくても大丈夫だったと思うんだよね。物語の枠組みの内部でも外部でも英語というのは、ちょっとくどいのよ。
プロットは、これがまた絶望的に低水準。つまらない『Apocalypto』だと思っておけば間違いない。大きな流れはほとんど一緒だ。観ていて、ああ『Apocalypto』は面白かったなあとずっと思っていた。あと、英語をしゃべる白人が、通訳の助けを借りながら演説し、言葉の通じない他部族の戦士たちを軍勢にまとめ上げるという、そろそろみんなむかついてもいいんじゃないかという陳腐なテーマは、最近のだと『Avatar』がそうだったよね。だからこの映画は、CGIがしょぼい『Avatar』だとも位置づけられる。
クライマックスで、ヒロインが車裂きにされかかるのだが、そこはもうちょっと引っ張ろうや。大岡越前でももっと引っ張るって。なので緊張感がまったくなし。それから、大ボスのAlmightyに、主人公が槍を投げて殺し、やつは神様なんかじゃないぜ! とか得意がるのだが、ヴェールで顔を隠したAlmightyの正体は最後まで明かされず仕舞い。それじゃあ神性の剥奪としてはちょっと不十分じゃない?
そういえば、家畜化されてピラミッドつくらされてたマンモスのリーダーが、解放後、最後に主人公に感謝するっぽいシーンがあるのだけど、まず主人公たちはマンモス狩りの部族であって、殺しては解体して肉を食う奴らなのと、「解放」って言っても、主人公がしたのはマンモスに槍を突き刺して暴走させただけである。解放してくれてありがとうと思えるだけの知性があるのであれば、最初から暴走してればいいだろうに、槍刺されて喜んでんじゃねえよ、という。