Gregory Hoblit監督『Untraceable』(邦題:ブラックサイト)

原題のままでは地味すぎるので邦題を独自につけるのはありだけど、そこは『killwithme.com』だろ。『ブラックサイト』なんて地味なままじゃないか。
さて、実は全然期待しないで観たのだが、結構おもしろかった。脚本には疑問点が結構あるものの、監督の編集がうまいんだろうなと思わせる。
犯人は犠牲者を捕まえてきては、殺人の過程をネットで実況する。しかもアクセス数に応じて殺人が進行するという仕組みだ。
第一の犠牲者(おっさん)。胸に実況サイト名「KILLWITHME.COM」が刻まれ、流血している。体には抗凝固剤の点滴がつながれていて、アクセス数が増えるほど点滴のスピードが上がる。抗凝固剤だから、血液が傷口で凝固しないでどんどん体外に流れ、最終的には失血死する。
第二の犠牲者(おっさん)。足をセメントで固定された状態で、大量のヒートランプに囲まれている。アクセス数が増えるにしたがって、ランプの点灯数が増えていく。皮膚は水ぶくれだらけになって、最終的に焼け焦げて死ぬ。
第三の犠牲者(FBIの若手)。大きな水槽に首まで浸かっている。水槽の中身は水だが、アクセス数が増えるほど、そこに硫酸が注入される。濃度が上がるに従って、皮膚は剥がれ、肉が溶けて、もちろん最終的に死ぬ。
物語は、FBIのサイバー担当のDiane Laneが、家族や自分が標的になりつつも、犯人をつきとめ、最後に対決して勝つ、という、まあよくある話だ。よくある話だが、上記の殺し方の工夫が楽しめるのと、役者の演技が大変よい。特に、Diane Laneの母親役のMary Beth Hurtという人が面白かった。
他方で、スリラーとしてはもう一つ、という点を指摘せざるを得ない。プロットの必然として、Diane Laneもまた犯人の手に落ち、上記の三人と同じ目に逢うことになる・・・のだが、上記の三人は、犯人の実況に従って「徐々に」死んでいくのであり、はっきり言って、途中で救出されたとしても、身体には取り返しのつかない損傷が残ることになるような、そういう目に遭っている。ところが、Diane Laneの体から血が何リットルも抜けたり、火傷と水ぶくれだらけになったり、体中の皮膚が溶けて剥がれたりするわけはない、と予想できるので、どうも緊張感がないのである。
実際、Diane Laneの場合は、小型の耕耘機の無数の爪が高速で回転している上に逆さまに吊るされ、アクセス数が増えるごとに少しずつ下に下がっていくという方式にすぎない。これだと、一定のところまで下がると頭がグシャグシャになるが、もちろん途中で助かることはわかっているので、結局無傷なんだろと思って緊張感を保てないのである。そして実際、Laneは無傷で犯人を射殺するわけだ。
さて、この映画について、ネットの暗部、怖い側面を描いた、とか言っている人はちょっとどうかしていると思う。怖いのは明らかに頭のおかしい犯人であって、別に当該サイトにアクセスした人が怖いのではない。誰もアクセスしなくても、犠牲者は犯人に殺される運命にあるのだから。それを、1000万人以上の人が殺人に加担することになった、とかいってネットは怖いよね的感想を抱くのは、要するに犯人のゲームに乗って、かつゲームと現実の区別がつかなくなってるやつなんだよね。
他方で、この作品をはじめ、スプラッタ映画を楽しんで観賞する人たち、交通事故で死体が転がっていたら(それを見るために)渋滞を起こす人たち(この点は作中でちゃんと描かれている)、グロいの怖いと言いつつほんとは大好きなお前らは、killwithme.comがあったら見ちゃうんだろ? この人でなしが! という挑発だと解釈するのは筋が通っている。筋が通ってはいるが、しかし、そんなの当たり前だろ! 今頃何いってんだ! という反論の方がもっと説得的だと思う。