Oliver Stone監督『World Trade Center』(邦題:ワールド・トレード・センター)

ワールド・トレード・センター スペシャル・コレクターズ・エディション [Blu-ray]

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レスキュー隊が崩れゆく建物の中で決死の救出活動を繰り広げるアクション超大作かと思ったら全然違った。
主人公は港湾局警察(PAPD)で、救出のためにビルに入ったはいいが、救助活動をする間もなく、ビルはすぐに崩壊。序盤のそのシーン以降、Nicolas Cage一歩も動けず。もう一人の生存者Michael Peñaと、眠ったら死ぬぞと言い合うだけ。一方、それぞれの家庭では、奥さん子供をはじめとして親族が集まり心配しどおし。それで結局助かって、奥さんが安心するシーンで観客は涙。もうほんとにただそれだけのプロット。お涙搾取映画というやつ。
他方で、政治的主張を抑圧し、淡々と事実を描いたともいいきれない。確かに、WTCビルに起こった惨劇を引き起こしたのが何者なのかについての言及は出てこない。しかし、というか、だからこそなお、この映画は(駄目な方に)政治色が強くなっていると思う。
ポイントは、前述の二人を発見するKarnesという人物の設定と発言である。Karnesは元海兵隊で、そのスキルを活かして救助活動をしようとNYに駆けつける。まずその意志を表明する場が、ペンテコステ派の教会である。また現場に着いてからも、「神のカーテンがなんたら」とわけのわからないことをいっている。この人物がキリスト教を体現しているのは明らかである。かつ、海兵隊らしく(?)無口で無表情な、いかにも軍人といった人物造形である。
さらに、救出活動が終わって、現場の瓦礫の上を歩きながら、Karnesは誰かと電話で話している。どうやら、軍に復員する意志を表明しているように聞こえる。「軍は報復のための人材を必要としているだろうからな。」 ここはびっくりしたので、巻き戻して再確認してしまった。ここまで、作中では、この惨劇の主体についてはまったく触れていないのだ。それが、いきなり「報復(avenge)」って。いったい誰に?
その謎は、エンドクレジットで明かされる。そこでは、登場人物たちの現在の状況が示される。その中で、Karnesは軍に復員し、イラクに派遣されているのだ。イラク! 熱心なキリスト教徒が、9/11の報復のために、イラクで軍事活動を行う。すごい、決まりすぎていて言葉もない。作中で敵が明示されないことで、むしろこの暗示効果は炸裂することになるわけだ。
なお、メインプロットの方についても文句つけとくと、まずMichael Peñaが助かって、奥さんと対面。その後ちょっとしてから、Nicolas Cageも助かって、奥さんと対面。これが、同じことを二回やっているだけで、非常に退屈である。私はPeñaのところでは泣いた(私はすぐ泣く)が、Cageのところでは泣けなかった。だってさっき泣いたんだもん。