矢野龍王『極限推理コロシアム』

極限推理コロシアム (講談社ノベルス)

極限推理コロシアム (講談社ノベルス)

いわゆるひとつのメフィスト賞(笑)。著者の頭が読者の平均的な推理力を大幅に下回っているとこうなるという典型。こういうのでデビューさせられて大変ですね。
ああいう状況では、まず相手側への自己紹介で、全部偽名を伝える(あるいは入れ替える)というのが合理的だろうと思う――が、著者の頭にはかすりもしなかったのだろう。
真相については、館が隣接しているというのは、「窓がない」という設定からミエミエ(ほとんど文法的必然性とでもいうべき)。で、相手側の犯人がこっちにいて、こっち側の犯人が相手側にいる、ということだろうと途中でわかったのだが、著者が考えたのは二人とも相手側にいるというもの。まあ、どっちでもいい(ヒントの件は噴飯ものだが)。
囚人のジレンマの話が出てくるが、

別々の房に入っている二人の囚人が、看守から「本当のことを自白してくれたら刑を軽くしてあげよう」と話を持ちかけられる。それぞれの囚人はもう一人の囚人の行動が気になって仕方がない。もう一人の囚人が自白しないとわかっていれば、自分も自白しない選択肢をとるべきである。そうすれば二人とも無罪放免となるためだ。けれども、もう一人の囚人が自白しない保証はどこにもない。もし相手が自白するという行動をとってしまった場合、自分にだけ重い罪が科せられる羽目になる。囚人は結局、最悪の事態になることを恐れるあまりに自白してしまう・・・・・・これが囚人のジレンマの結末だ。



矢野龍王極限推理コロシアム』45頁

全然違うぞおい(笑)。囚人のジレンマは相手の合理性を想定するもので、上の設定だと、相手も合理的なら、二人とも黙秘するのが合理的。だからジレンマなんてどこにもない。囚人のジレンマを構成するには、「二人とも黙秘」よりも「自分だけ自白」の方が、自分にとって得になるという設定にしないとね。まあどうでもいいけど。