マーガレット・トレイシー『切り裂き魔の森』

切り裂き魔の森 (角川文庫)

切り裂き魔の森 (角川文庫)

原題は『ホワイト家の奥さん』(Mrs. White)。タイトル通りというか、連続切り裂き魔の旦那を持ってしまったホワイト家の奥さんが、それに気づいてしまったり、それであーだこーだ悩んだりするだけの話。全然おもしろくない。犯人は最初から地の文でバラされているので、奥さんの妄想じゃないかという可能性もなく、「そのままやん!」という感じ。これ、二重人格モノだったらつまんねーだろうな、と思っていたら、さらにつまんなかったのでびっくり。
amazonの紹介には

ホワイト夫人の生活は平穏だった。ある日までは…。町を恐怖に陥れている連続殺人、その発生日に限って夫の帰宅が遅いことに気づくまでは…。

と書いてあって、裏表紙にも同様のことが書いてあるけど、これは嘘。夫が殺人鬼であることに気づいたのは納屋で凶器と血まみれの服を見つけたからだし、納屋を探索したのは夫の浮気を疑っていたからだし、疑念を抱き始めたのは、仕事場に電話したらもう帰ったといわれたのに、夫自身はまだいたと嘘をついたから。そもそもこの奥さんは世事に疎く、夫の遅帰りと殺人発生日の符合に気づくような知識はない。もちろん、この紹介にあるように、だんだん疑念が深まっていくような内容だったらもっと面白かっただろう。そういう意味では詐欺的な紹介だ。
もうひとつ言うと

彼女が思いだしたのは、高校時代の夫が森の鹿狩りで示した或る異常な行動だった

と書いてある(これは本の裏表紙には書いていない)が、これも嘘。思い出したのは、夫の友人であった元彼の様子から、夫が鹿狩りで異常な行動をしたのではないかと疑念を抱いたことだけ。鹿狩りで何があったかは(何かがあったのかどうかも含めて)最後まで明らかにされていない。