人文総合演習A 第13回
今回の報告は、著者の議論を参考にしつつ、独自に『風の歌を聴け』の評論を試みるという、なかなか野心的なものでした。論点も結構面白く、しかし適度に穴もあって(笑)、作品を解釈していくことの面白さと難しさを体験できたのではないかと思います。作品全体の解釈は各部分の解釈に依存するが、他方で各部分の解釈は全体の解釈に依存する――これを解釈学的循環といいますが、今回話題になった「嘘」についてはこの循環(による解釈の不定性)が現れていたようにも思います。あと、この作品が、「「僕」が書いた物語」であると同時に「「僕」が書いた物語であることが内部に書かれている物語」であり、さらにそれを書いた「村上春樹」が架空の作家ハートフィールドにまつわる架空のエピソードを書いた(それゆえ小説の一部である)「あとがきにかえて」を含むという点で、「著者」が複数、重層的になっており、解釈者がどのレイヤーに依拠するかで話が変わってくるということもいえるでしょう。この点も議論に組み込めればさらに展開が望めたかと。
さて、出席者に『風の歌を聴け』を読んだことがある人がいないというのは、ちょっと誤算でした。早めにレジュメの方向性をアナウンスしといた方がよかったですかね。でも今回の文献なら、少なくとも『風の歌を聴け』くらいは読んどくもんだろうというのは・・・過剰要求ですかそうですか。
昔、大学1年の頃、柴田元幸さんの「翻訳論」の講義をとっていて、ちょっと遅刻していったところ、もともと大人気講義だったとはいえ異常な人数が教室にいて、後ろの入り口から入って席を探して前の方にやっと見つけて座ったら、なんと村上春樹がゲストに来て柴田さんと対談していて仰天したのは良い思い出です。これが東京か!と思いました(笑)。このときの様子は『翻訳夜話』に収録されていて、なんと私がフロアから村上さんに質問しています(どの質問かは恥ずかしいので言いませんwww)。
以下、出席者のコメント。
- 本の読みとき方は、作家主義を経た現在、著者の「正確な」意図を求めることを重視していない。ましてやこの本も読者意見の一つと思うとなんだか気がのらなかった。いろんなことを考えているのだなぁと思った。自分の意見は少数派なのだなぁ・・・。
- 小説に関しては様々な解釈ができるし、正しい答えはわからないので難かしいです・・・それが面白いところですけど。今度機会があったら、評論じゃなく小説についての議論もしてみたいですね。
- 物語における言葉の意味を考えるのは難しいけれど楽しいことだと思います。同じ小説を読んでも場面ごとの解釈は読む人の経験・考え方に影響されることでしょう。みんなで『風の歌を聴け』を読めていたら、もっと議論できたかなと思います。
- 今回の『風の歌を聴け』は読み解き方に様々な考え方があって、かつ内容が抽象的な感じだったので少し難しかったです。実際に自分でも村上氏の本を買って、読みといてみたいとは思いました。
- 今回の議論は、答えが一つにしぼれないことが多くなるはずなのだから、まず、自分の立場をはっきりさせ、その結果どうなるかを話すべきでした。また、質問をして返答されたとき、それを消化して、議論が続くようにしたいです。
- 今回の本を読んでとても村上春樹の作品を読みたくなった。本文の内容についての解釈は、相当な裏付けというか相手を納得させる確固としたものがないと、1つ、または少数にはしぼれないので、今の状況で討論するのは意味がないことだと思った。
- 今回は皆がたくさん話すのを聴いて満足してしまった。でも面白かった。村上春樹をもう一度読み直そうと思った。
- 私は村上春樹を読んだことがなかったので、まず設定がよくわからないところがあったが、この本を読んでみてとても村上春樹の作品を読みたくなった。こういう風に、いろいろな読み方ができるのは面白いし、今度何か読む時考えながら読んでみたい。
- 取りあげられていた本を実際に読んだことがなかったので、内容を理解するのに時間がかかった。今度この本を読んで今日の討論をもう一度考えたい。
- 今回の本は難しい本だったと思う。担当者は、これだけのものをよくまとめられたと思う。小説は謎が多いですね。
- ややこしい話についていけませんでした。小説を読んで、これは何を暗示しているとかいうことを考えながら読み進めるようにできたらいいなと思います。引用があるレジュメはわかりやすくて良かったです。
- 報告者の感想 疲れました。早く寝たいです。皆が読んだことのある小説じゃないとなかなか議論は難しいと思いました。もっと、皆に読んでもらっておくとか下準備を自分自身もしっかりしておけばよかったです。
- 司会者の感想 今回は司会という立場だったのですが、みんなの言動をまとめたりするのは難しく、今回経験できてよかったと思います。今度がんばりたいです。