システム理論のゼロサム

何か目的のある道具なら、性能が上がるとは、目的達成能力が高まるということ。武器なら、殺傷能力が高まることが性能の向上。
システムは前目的的、非道具的なものとして定義されている。だから、システム理論の改訂によって、システムの性能がアップしても、それは目的達成能力が上がったことにはならない。システムには目的なんかないから。
システムはただ存立し、存続するだけ。
ルーマン曰く、「自己参照システムのエンジンはすでに強力だったが、オートポイエーシスはそれにターボチャージャーをつけたようなもの」。性能がすごく上がっている。
同じ対象を、かつて記述していたのよりも高性能のシステム概念で記述するとき、しかし外面的・結果的には何も変わっていない。システムは存立し存続するだけ。性能向上はプラスだが、結果はゼロのまま。
ということは性能プラスの分だけ、マイナスがないといけない。それは存立・存続に対する障碍、同一性維持のために解決すべき問題。システムの性能の向上と、システムに課せられる問題の増大は表裏一体。
オートポイエーシスの示差的特徴は、要素水準での連続的自己再生産能力。これを裏返そう。自分で不断に再生産しないと要素が消えてしまって自分も消えてしまうということ。ルーマン曰く、「要素は生産された瞬間に消滅する」。これがオートポイエーシスの前提。オートポイエーシスは、そういう問題を抱えたシステムが存立・存続するための前提。
要素を連続的に自己再生産できる能力をもったシステムの概念を採用するということは、要素を連続的に自己再生産しないと存立・存続できないシステムの概念を採用するのと同じこと。つまりゼロサム