構造化理論用語集

The Constitution of Society: Outline of the Theory of Structuration

The Constitution of Society: Outline of the Theory of Structuration

ギデンズ『社会の構成』(The Constitution of Society)のpp. 373-377に載っている「構造化理論用語集」。間違ってたら乞う御指摘。

配分資源(Allocative resources)

権力の生成に必要な物質資源。自然環境も人工物も含む。人間による自然の支配に由来する。

戦略行為の分析(Analysis of strategic conduct)

制度を、社会的に再生産されるものとして捉える社会的分析。行為者が自分の行為をどのようにして反省的に観察しているか、相互行為の構成において行為者が規則や資源をどのように利用しているかに注目する。

権威資源(Authoritative resources)

権力の生成に必要な非物質資源。人間の行為を操縦する能力に由来する。ある行為者による他の行為者の支配の結果である。

階級分化社会(Class-divided society)

階級分化が目に見える形で存在する農業国家。ただしこの階級分化が社会の組織化原理の主たる基礎となっているわけではない。

文脈性(Contextuality)

時空間内で行われる相互行為の状況依存性。相互行為の設定、複数の行為者の共在、それら行為者間のコミュニケイションを含む。

矛盾(Contradiction)

複数の構造原理が互いに他に依存している一方で、互いに他を否定している、という対立状態。そういう状況から生まれる不都合な結果。

信頼性の基準(Credibility criteria)

行為者が自分の行為に理由を与える際に用いられる基準。その行為を適切に記述する助けとなる。

制御の弁証法(Dialectic of control)

権力の分配的側面(制御としての権力)が持つ二方向性。既存の権力関係における劣位者が、優位者を制御することを可能にするような資源利用法。

言説意識(Discursive consciousness)

社会的条件、特に自分の行為の条件について、行為者自身が言語化できること。言説という形で行為者が自覚していること。

二重の解釈学(Double hermeneutic)

日常行為者によって構成された有意味な社会的世界と、社会科学者が創出したメタ言語、という二つの意味枠組が重なり合った部分。この共通部分の存在は、社会科学にとって論理的に要請されるものである。社会科学を実践していく中では、一方から他方への「ずれ込み」がつねに起こる。

構造の二重性(Duality of structure)

構造が、構造によって再帰的に組織化される行為の、媒体であると同時に結果でもあること。社会的システムの構造特性は、行為の外部には存在しないが、他方で構造がないと行為の生産や再生産もできない。

挿話としての把捉(Episodic Characterization)

制度変化を他の形での制度変化と比較するために、それを挿話として捉えること。挿話とは、何らかの始まりがあり、そこから様々な出来事が発生して、それらが何らかの結果を生み出す、そういう変化の連続である。これは、ある程度までなら、文脈から切り離して互いに比較することが可能である。

外部からの批判(External critique)

日常行為者の信念や実践を、社会科学の理論や知見に基づいて批判すること。

歴史性(Historicity)

歴史を変化の連続として捉え、それを認知的に利用することで変化をさらに進めること。これは「歴史」とは何かという問いに対する一つの立場、つまり、歴史とは、歴史についての知識を歴史を変えるために利用することだ、という立場である。

ホメオスタシス循環(Homeostatic loops)

システムの再生産に対してフィードバック効果を持つ因果要因。多くの場合、このフィードバックは意図されざる結果である。

制度分析(Institutional analysis)

制度というのはつねに再生産され続ける規則と資源のことだという捉え方をすることで、行為者の技能や意識を保留状態に置く社会的分析。

社会間システム(Intersocietal systems)

社会と社会の間のあらゆる分割線を越えて形成される社会的システム。複数の社会が作る集合体を含む。

内部からの批判(Internal critique)

理論や知見を、その論理や証拠という観点から評価に付す、社会科学の批判装置。

可知性(Knowledgeability)

なんであれ、行為者が自分や他人の行為を取り巻く状況について知っている(信じている)こと。当の行為の生産や再生産に用いられる。暗黙知も、言説知も含む。

場(Locale)

相互行為の設定に含まれる物理的領域。明確な境界を持つため、相互行為の集中に様々な形で役立つ。

相互知識(Mutual Knowledge)

日常行為者と社会学的観察者の双方に共有される、生活の中で「やっていく」ための知識。社会的活動を適切に記述できるための必要条件。

存在論的安心(Ontological security)

自然的世界や社会的世界が、見えているそのままの姿で存在するという確信または信頼。自己や社会的同一性の基礎となる実存的要因を含む。

実践意識(Practical consciousness)

社会的条件、特に自分の行為の条件について、行為者自身が知っている(信じている)ことで、言説の形で表現できないもの。ただし無意識とは違って、抑圧が障壁となって実践意識を護っているわけではない。

行為の合理化(Rationalization of action)

自分はなぜその行為をそのような仕方で行ったのかという根拠を、つねに挙げることができる、有能行為者の持つ能力。この能力を持っていることによって、行為者は上記の問いを向けられた場合には、自分の行動の理由を挙げることができる。

行為の反省的観察(Reflexive Monitoring of action)

人間の行動が、行為の流れの中で持つ有目的性ないし有意図性。行為というのは、まず個々別々の動作とそれぞれの意図があって、それらが集まってできているのではなくて、連続的な過程である。

反省的自己統制(Reflexive Self-regulation)

システムの再生産に対してフィードバック効果を持つ因果要因のうち、システムの再生産メカニズムについて行為者が持っており、このメカニズムを制御するのに用いられる知識によって決定的な影響を受けるもの。

領域化(Regionalization)

場の内部、あるいは場と場の間で、時間的、空間的、あるいは時間空間的な分化が生じること。社会はつねに統一的で同質的なシステムだという仮定に対抗するのに重要な概念である。

再生産回路(Reproduction circuit)

複数の再生産関係関係の系列が制度化したもの。ホメオスタシス因果循環か、反省的自己統制のいずれかによって支配される。

ルーティン化(Routinization)

日常の社会生活の大多数に見られる、習慣性および自明性。親しんだ行為様式・行為形式の普及。存在論的安心感と、互いに支えあう関係にある。

社会的統合(Social Integration)

複数の行為者が共在する状況における、互いの実践の間の相補性。一つの共在状況の内部の連続性と、その他の共在状況からの分離を意味する。

階層化モデル(Stratification model)

人間行為者の認知/動機に関して、言説意識・実践意識・無意識の三つの「層」を強調する解釈。

構造化(Structuration)

時間・空間を越えた社会的関係の構造化。構造の二重性による。

構造原理(Structural principles)

全体社会の組織化原理。一つの社会、あるいは社会類型全体の制度配置に含まれる要因。

構造特性(Structural properties)

社会的システムの特性で構造化したもの。特に、制度化した特性。時間と空間を越える。

構造(Structure)

社会的システムの再生産に再帰的に組み込まれている規則と資源。記憶の痕跡として、人間の可知性の生物学的基礎として、また行為に具現された形でしか存在し得ない。

構造群(Structures)

社会的システムの制度的分節化に含まれる規則と資源の集合。構造特性も含め、構造群を研究するということは、社会的統合とシステム統合に影響を与える変換/媒介関係の主側面を研究するということである。

システム(System)

社会的関係が時間空間を越えてパターン化したもの。実践の再生産と理解される。社会的システムは、その「システム性」の程度が非常に多様であり、物理的システムや生物学的システムに見られるような内的統一性が見られることは非常に稀である。

システム統合(System integration)

行為者間、あるいは集合体間の相補性が、拡張した時間空間を越えて、つまり共在条件の外部にまで及んでいるもの。

時間空間の距離化(Time-space distanciation)

社会的システムが時間空間を越えて広がること。社会的統合およびシステム統合のメカニズムに基づく。

時間空間の先端(Time-space edges)

構造類型の異なる社会の間の、対立あるいは共生の関係。

妥当性基準(Validity criteria)

社会科学者が自分の理論や知見を正当化したり、他人の理論や知見を評価する際に用いる基準。

世界時間(World time)

挿話の性質に影響を与える歴史状況。過去の歴史を理解することが、挿話としての把捉に与える効果。

よくわからんのもあります。