サイモンほか『行政学』第三章「人間行動と組織」

Herbert A.Simon, Donald W. Smithburg and Victor A. Thompson, 1950, Public Administration, Alfred A. Knopf, Chapter 3 "Human Behavior and Organization" pp. 55-

イントロ

  • 組織行動を担うのは機械ではなくて人間だから、万事計画通りにはいかないよ。人間行動にどういう方面から影響があるかが本章の主題だよ。

組織内行動の特徴

  • ある瞬間に可能な行動は無数にあるけど、実際にはごくわずかなことしかできないよ。なぜ(他ではなく)そうしたか、を考えるよ。そういう「決定」には意識的なものも無意識的なものもあるよ。

行動の前提

  • 決定の基準とか指針となるものをその決定=行動の「前提」というよ。ひとまずは意識的で合理的な行動に限定して話をするよ。
  • この種の前提には価値要素と事実要素があって、前者が目的に、後者が手段に対応するよ。
  • 大抵の目的はより上位の目的のための手段だから、価値要素と事実要素の完全分離はなかなか難しいよ。でもともかく、行動選択が正当なのは、それが特定の目的を、適切に実現する場合に限るよ。

重要な価値前提いくつか

  • 価値前提で最重要なもの四つ:(1)組織の掲げる目的、(2)効率性の基準(=(利益/費用)の最大化)、(3)公正の基準、(4)決定者個人の価値観。
  • 公正基準と決定者個人の価値観に反しない限りで、組織目的を最も効率的に実現する手段が選ばれる、ってことだよ。

重要な事実前提の類型いくつか

  • 一般的な技能・知識と、その場の具体的な情報はどちらも事実前提だけど、種類が違っていて、取得経路も違い、多くの政府機関には前者を身に付けさせる訓練機関と、後者を得る情報機関がそれぞれ専門的にあるよ。

行動の前提に対する影響

  • 組織内で働くかそうでないかで働きが変わってくるとしたら、それは他の組織成員からの影響だよ。監督者とかはいい影響を他の成員に与えることを職務とした成員だよ。

累積的な影響

  • 技能、知識、性格、人格といったものはそれまでの経験から累積的に「内面化」されたもので変わりにくいし、その分その場の情報よりも重要だよ。

影響の種類

  • 成員の行動を決定する影響としては、(1)組織に入る前の経験による内面化、(2)組織に入ったあとで組織外(家庭とか)から受ける影響、(3)公式組織過程で受ける影響、(4)組織内の非公式な社会的構造から受ける影響、の四つの種類があるよ。

組織外からの影響

  • 参入の前後を問わず、組織外からの影響には主に、(1)共同体の一般的な習律、(2)本人の性格、(3)外部組織からの影響、(4)公式の教育・訓練・就業経験、の4種類があるよ。

共同体の習律からの影響

  • 米国行政における習律としては、権威への従属、地位に応じた扱い、効率性の追求、所属集団への忠誠とかがあるよ。個々の集団に特有の習律もあるけど、共同体の習律にあまりに反するものはないよ。

個人の性格の違い

  • どのくらい客観的か(どのくらい感情表出的でないか)。どのくらい能動的か。どのくらい野心的か(どのくらい出世や昇給を気にするか)。どのくらい迅速に決定を下せるか。どのくらい社交性・協調性があるか。

「外部」組織からの影響

  • 家族とか労働組合とか。競合するときも、協調するときもあるよ。

就業前訓練の影響

  • 教育や訓練が個人に技能や知識を与えるの当然だけど、さらに専門職それ自体が外部集団となって専門主義が発生するという面もあるよ。

被用者の選択

  • いろいろな影響があって個人個人で違いがある以上、適した人材を採用するには選択が必要だよ。普通は自分に適した職業を希望するわけだから、そういう自己選択でいける部分もあるけど、それだけじゃ不十分だよ。

公式組織、非公式組織からの影響

  • 組織外からの影響で行動が全部決まるんだったら、結局人はどこでも同じ行動をすることになるわけで、組織論とかいらないよ。でもそうではないので、組織内からの影響についても考えないといけないよ。

組織内行動の特徴

  • 組織に所属することで、所属しないときにはない特徴が行動にあらわれるようになるよ。
  • 組織目的(に従って定められた当人の職責)が価値前提になるよ。
  • 組織内で決まっている影響・権威関係というのがあって、たとえば上司の言うことには従わないといけないよ。
  • 他の成員との間の関係について安定的な期待が形成されるよ。
  • 自分の価値前提を達成するのに向けられるやる気=士気が多少とも発生するよ。
  • こういう特徴を備えた人間モデルを、経済学の「経済人」にならって「組織人」(administrative man)と呼べるよ。

組織内の影響の特徴

  • 同僚の反応が、組織内で特有の賞罰となるよ。

影響の強化

  • 組織参入前に身につけた習律によって、組織内影響の力が高まるよ。というか高めるような習律を身につけている人を採用するよ。

公式組織

  • 公式組織とは、「正統な計画による、組織成員の行動と関係のパターン」だよ。正統性は、成員がどんなものなら「受け容れないかんなあ」と思うかによるよ。

非公式組織

  • 実際の行動は、公式の計画によって隅々まですべて定められているわけではないし、また公式の計画に反する部分もあるよ。公式の計画によらない、実際の行動のパターンの全体が非公式組織だよ。

公式組織と非公式組織の相互影響関係

  • 公式の計画によって、誰が同僚かが決まり、そこに非公式組織が発生するという反面、非公式の関係が認可されて公式計画に組み入れられるということもあるよ。

要約――個人と組織

 この章では、個人を組織に結びつけ、個人の行動を組織行動のシステムの一部とする複雑な関係図式について検討してきました。個人が組織の成員になると、彼の選択や決定の基礎である事実前提と価値前提が変化し、それに従って彼の行動も変化するのでした。組織の成員となることで、組織の成員でなかったら追求しなかったはずの目標を追求するようになり、また組織の成員でなかったら考えないような手段を選ぶようになるのです。
 とはいえ、成員個人というのは組織の意のままに操られるような存在では決してありません。彼の行動を制御することは、非常に狭い範囲でしかできないのです。成員の実際の行動を説明するにあたっては、組織の外部からの過去および現在の影響、特に組織の公式計画に含まれない影響が無視できないのです。
 組織に対する抵抗は個人によるものだけではありません。集団単位での抵抗というのもあります。成員というのは社交的な存在ですから、彼らは自分が直接所属している労働集団のことをすごく気にします。そしてこれが、組織内での行動に対する影響として重要な要素になるのです。この対面集団の役割と、それが組織経営に対して持つ重要性については、最近になってようやく適切な注意が向けられるようになりました。そこで次の章では、集団への忠誠心と、それが組織経営において果たす役割について述べることにしましょう。(pp. 89-90)