プラトン『メノン』
- 作者: プラトン,藤沢令夫
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1994/10/17
- メディア: 文庫
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「徳」とは何かについての対話。ソクラテスの粘着ぶりと、それにキレないメノンの真摯さに心を打たれます。
ソクラテス 君が話しあっているのを聞けば、メノン、たとえ目かくししていても、ひとにはちゃんとわかるだろうね。君が美しくて、君を恋している者がまだいるということが。
メノン いったい、どうしてですか?
ソクラテス だって君は、議論のなかでひとに命令ばかりしているではないか。そういうふうにするのは、自分が若くて美しいあいだは専制君主のようにふるまえるために、わがままに甘やかされている人たちのやり方なのだ。おまけに、どうやらぼくは、美しい人たちの前に出ると弱い男だということを、君に見ぬかれてしまったらしいね。・・・・・・しかたがない、君の機嫌をとるために、答えることにしようか。
メノン ええ、ぜひ機嫌をとってください。
わろた。
メノン ・・・・・・もし冗談めいたことをしも言わせていただけるなら、あなたという人は、顔かたちその他、どこから見てもまったく、海にいるあの平べったいシビレエイにそっくりのような気がしますね。なぜなら、あのシビレエイも、近づいて触れる者を誰でもしびれさせるのですが、あなたがいま私に対してしたことも、何かそれと同じようなことのように思われるからです。なにしろ私は、心も口も文字どおりしびれてしまって、何をあなたに答えてよいのやら、さっぱりわからないのですから。
とはいえ、これまで私は徳について、じつに何回となく、いろいろとたくさんのことを、数多くの人々に向かって話してきたものです。それも、自分ではとてもうまかったつもりでした。それがいまでは、そもそも徳とは何かということさえ、ぜんぜん言えない始末なのです。――あなたがこの国を出て海を渡ったり、よそへ行ったりしようとしないのは、賢明な策だと私は思いますね。なぜなら、あなたがほかの国へ行って、よそ者としてこんなことをしてごらんなさい。きっと魔法使いだというので、ひっばられることでしょう。
ソクラテス 油断のならぬ男だね、君は、メノン。もうすこしでひっかかるところだったよ。
メノン え?いったい何のことですか、ソクラテス?
ソクラテス 何のために君がぼくを譬えたか、気がついているよ。
メノン 何のためだと思われるのですか?
ソクラテス ぼくに君のことを譬えかえさせようという魂胆なのだろう。とかく美しい連中は誰でも、「たとえっこ」をするのをよろこぶものだということを、ぼくは知っている。彼らにしてみれば、それは得になることだからね。だって、思うに、美しい人たちは、やはり美しいものに譬えられるにきまっているではないか。しかしぼくは、君を譬えかえしてはあげないよ。
完全にセクハラだな(男同士とはいえ)・・・それよりシビレエイみたいな顔ってどんなんやねん。
アニュトス ソクラテス、どうもあなたは、軽々しく人々のことを悪く言うようだ。もし私の言うことをきく気があなたにあるなら、私はあなたに忠告しておきたい、気をつけたほうがいいとね。ほかでもない、たぶんほかの国でも、ひとによくしてやるよりは害を加えるほうが容易だろうけれども、この国ではとくにそうなのだから。そのへんのことは、あなた自身も承知していることとは思うがね。
あーあ怒らせちゃった。この数年後、アニュトス(とメレトス)の告発によってソクラテス死刑。