シリーズ本日の誤訳(1)

公式組織の機能とその派生的問題 上巻

公式組織の機能とその派生的問題 上巻

下手な翻訳には目をつぶるにしても、間違った翻訳は指摘しないといけません(一般論)。とりあえず今やっている本書第7章(の途中)から。

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【誤訳】

トンプソンは、この観察を権威の階層論に対する批判のために利用し、それによって、この問題に固有の興味深い側面をとらえている。(p. 148 註15)

【原文】

der sie indes zu einer Polemik gegen die Autoritätshierarchie benutzt und dadurch an den eigentlich interessanten Aspekten des Problems vorbeigreift.

【正訳】

彼は、だから権威ハイアラーキ論は間違っているという議論にしてしまっていて、そのためこの問題の本当に面白い側面を捉え損なっている

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【誤訳】

われわれの観点からすれば、より広い範囲で、公式的に正当化された、すなわちヒエラルヒー的で派生的な権威が、ヒエラルヒー的ではないコミュニケーションからあたえられることも考えられるのである。(p. 148 註16)

【原文】

es in weitem Umfange auch formal legitimierte, also hierarchisch abgeleitete Autorität von nichthierarchischen Kommunikationen gibt.

【正訳】

ハイアラーキから外れるコミュニケイションが、公式の正統性を持つ権威、つまりハイアラーキから派生する権威を有するという現象が広く存在する

【補足】
該当箇所の前には何と書かれているか。米国組織論は非公式組織論ばっかりやっててだめだったという話(これは本書全体の問題意識でもある)。つまり非公式な(ハイアラーキ外の)権威(権力)の発見ばかりやっていて、公式権威そのものではないが公式権威に基づくような権威(=派生的権威)の存在に気づかなかったのがいかん、といっている。この流れで、上記誤訳のような解釈はありえない。

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【誤訳】

たとえば、裁判で判決を下す状況などはこの典型である。(p. 136)

【原文】

Das ist zum Beispiel typisch die Entscheidungssituation der rechtsanwendenden Verwaltung.

【正訳】

行政の法令適用に際する決定状況というのはその典型例である。

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【誤訳】

自由意志的な組織では目的をきわめて特殊なものにすることができるために、成員の大部分――若干の熱狂者を除く――は、組織の目的のために全力を尽くすということはないのである。(p. 149 註21)

【原文】

Doch können auch freiwillige Organisationen ihre Zwecke so spezifizieren, daß sich die breite Masse ihrer Mitglieder — von einigen Begeisterten abgesehen — nicht voll für sie einsetzt.

【正訳】

しかし自発的組織の場合ですら、組織目的を特定してしまったがゆえに、成員の(熱狂的な一部を除く)大部分が組織目的に全力を傾けなくなってしまうという事態が起こりうる

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