Tim Burton監督『Charlie and the Chocolate Factory』 (邦題:チャーリーとチョコレート工場)

チャーリーとチョコレート工場 [Blu-ray]

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基本的には、ムカつくクソガキを懲らしめてすっきりするための大人の映画。実際、こまっしゃくれたガキどもが酷い目に遭い、 Oompa-Loompa たちに酷い内容の歌を歌って踊られるところは最高。ただ、それだけ、という感じもしてしまう。
まず良いところから言うと、やはり Oompa-Loompa がどうしようもなくいい。もともと身長が130センチしかない Deep Roy が、さらに縮尺を小さくして、100人くらい同じおっさんのしかめつらで出てきて、またどうしようもなくださおもしろい歌と踊りを披露してくれるのだ。実のところ、他のところはこのシーンのための準備でしかないと言っても過言ではない。
さて、最大の問題は、主人公の Charlie くんが、最初から最後までずっとありえないくらい良い子で、であるがゆえに、なんの成長もしていないことだ。しかも、最終的に、工場内で最後に残り、工場の後継者に指名されるのがこの Charlie なのだが、その理由は、「良い子にしていた」、つまり「何もしなかった」からでしかない。果たしてこの少年は、工場内を見学して楽しかったのだろうか。もし、この映画をもとにしたロールプレイングアトラクションがあったら、絶対 Charlie にだけはなりたくないと思う。だって、チョコレートの川で溺れて機械で吸い上げられたり、体が紫色のでかいボールみたいに膨らんだり、大量のリスに体を運ばれてゴミ捨て場に捨てられたり、テレビの中にテレポートして体が小さくなったりした方が、絶対おもしろいもの!
ところで、 Charlie は決して完璧な善人ではない。工場に招待されるためのゴールデンチケットを、彼は拾った10ドル札で買ったのだ。この経緯について、映画ではその後なんの言及もない。これはちょっと驚いたし、居心地の悪さを感じた。彼の家は貧乏で、チョコレートなんか、1年に1回、誕生日にしか買ってもらえないような生活なのだ。ならば、ゴールデンチケットが当たった! と家に駆け込んでくる息子に対して、両親や祖父母としては、「いったいそれどうしたの?」と問い質すべきだろう。「盗んだのか」じゃなくても「そのお金どうしたの」くらいは当たり前だし、もし「拾った」というのであれば、親としては(涙を飲んで)「返してこい」まである展開のはずだ。ところがこの両親は何も言わずにいっしょになって喜んでいるだけであり、 Charlie には罪の意識や、「いじきたないことをした」という気持ちはさらさらない。つまり、彼の「良い子」性というのは、両親に叱られない、という消極的なものにすぎず、自ら善悪を判断しているわけではないということなのだ。
この、 Charlie 少年のあまりの無個性ぶりのために、映画は成長物語になりえず、その結果として、彼以外の子供たちに対する嗜虐趣味映画以上のものになり損なっている。私としては、「拾ったお金で当てた」という原罪を、工場内で指摘されたり、あるいは落ちているものを拾って Charlie 自身も懲らしめられるシークエンスを入れ、そこからの成長を組み込んでおけば、なかなかの傑作になったと思う。ラストの、 Willy の父親との和解についても、結局、「非実在青少年」とでもいうべきありえないくらいの「良い子ちゃん」 Charlie のお導きによるものであるがゆえに、取って付けた感しか残らず、感動できない。
ただ、繰り返すが、 Oompa-Loompa は、それらを補って余りあるくらいに素晴らしい。最後のカットに登場したところでもまた笑わせてもらった。