David Fincher監督『Zodiac』 (邦題:ゾディアック)

ゾディアック ディレクターズカット [Blu-ray]

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当時の雰囲気をうまく示し、また面白いカメラワークとディジタル編集、それから音楽のうまい使い方で、なかなか楽しめる映像が満載なのだが、一つの映画としてはどうかなあ。
主人公は San Francisco Chronicle で漫画担当(cartoonist)の Robert Graysmith で、この映画自体が、この Graysmith が書いたベストセラー本『Zodiac』を原作としている。このことが、少なくとも二つの点でこの映画に製薬を加えているように思う。
一つは、本が書かれている以上、この主人公に何か現実の危害が加わることはないというのが事実的な前提なので、そういう意味でのサスペンス的な盛り上がりにはどうしても欠けてしまうということ。かなり終盤に至っての地下室のシーンでいかにもそれっぽい演出があったが、もちろん結果的には何もないわけで、作り手がどうしようもなくなってとってつけたという感じがしてしまう。普通のホラーとかサスペンスなら、こういうのは序盤においておくべきものであり、終盤に突然こんなのが入るので、全体的に一体なんの映画なのか、という困惑だけが残る。
もう一つは、どうしても主人公=原作者の行動を何らかの意味で「正しい」ものとして描かなくてはならないために、素人が様々な犠牲を払いつつ頑張って資料を集めて真相を解明した、というつくりになっていること。これは、2007年の映画としてはあまりにも幼稚な構成である。犯人が作り上げた探偵劇の中から外部に出られていないと言ってもいい。この映画よりも10年も前に、部分的にZodiacの真似をした犯罪者と、Zodiacに踊らされた関係者の真似をした大衆によるエピゴーネン、というかパクリ劇を見せられた我々としては、素朴にそういう探偵ごっこにのめり込むことは難しいのだ。主演の Jake Gyllenhaal がまた、もう最初から逝っちゃってる眼をしているために、その分、観てる側としては引く、というか心配になる。
そういう意味では、おそらく謎解きのあたりよりは、謎解きに熱中するあまりに人生が壊れていく人々の様子をフィーチャーした方が良かったと思う。そのへんは、本作では Robert Downey, Jr. が演じる Avery が担当して好演していたが、もっとそういうところが観たかった。

途中。つづく。