D.J. Caruso監督『Eagle Eye』(邦題:イーグル・アイ)

イーグル・アイ [Blu-ray]

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いついかなるときも監視され、身の回りのものがすべて操られるために、つねに危険に追われる、という点では、『Final Destination』と同じなのだが、その遍在する超越者が「死の運命」というわけわからんもんではなくて、政治粛清の意志を持ったスパコンとなると、前者では許されていた、いやむしろ楽しめていた不合理性が、どうしても許せなくなってくる。
主人公Jerryはコピー屋の店員という、なかなか革新的な職業の主人公なのだが、革新的すぎてお金がなく、家賃滞納は当たり前だ。ところがある日、ATMに75万ドルもの残高があって、勝手に札束があふれてくる。不思議に思いながら家に帰ると、部屋いっぱいのダンボールの中に、銃器が満載だ。うわぁと思っていると、携帯に女性の声で電話があって、すぐ逃げないとFBIが突入してくるぞと脅す。はぁ? と思っているとほんとにFBIが来て逮捕されて、そこから始まる陰謀巻き込まれ型サスペンスアクション。
このタイプの話では、観客は、主人公の視点から映画を観る。どうして俺の口座に大金が? なんで俺の部屋に大量の武器が? なぜ? なぜ? これにはどういう意味があるんだ? 危機一髪のアクションにハラハラしながら、観客は主人公と一緒になって、現象の意味を考えるのだ。だからこそ、最後に真相が明らかになり、点と点がつながって全体の中での意味が明らかになった段階で、強いカタルシスを得ることができるのである。
しかしこの作品に関しては、あまりそういう楽しみ方は試みない方がいいだろう。なぜなら、えーと、意味はないからだ(キリッ)。特に、冒頭の大金と武器に関しては、作り手たちが途中でその件を忘れてしまったのではないかというくらい、何の言及もない。考えるだけ無駄である。
実は事件の首謀者は、コンピュータの確率計算を無視して中東で誤爆ばかり繰り返す馬鹿な大統領にキレて、「私、シャア・アズナブルARIIAが粛清しようというのだ!」とか言い出したコンピュータ本人であり、電話の女の声も、このスパコンの声だった。主人公の双子の兄が、このスパコンの担当官だったのだが、その異状に気付いて「修正してやる!」(by カミーユ・ビダン)となんかした結果、ARIIAに粛清されてしまったのだが、この兄の顔認証でロックを解除しないと粛清作戦が起動できないので、双子の弟をペンタゴンまで連れてこようとした、というのが、Jerryを襲う一連の不可解な事件の真相である。
そして、真相が明らかになっても不可解さが解消されないというのが、この映画のポイントである。ARIIAの万能さは、電線の鉄塔を遠隔操作で物理的に(!)破壊するほどであり、MQ-9を操ってトンネルでミサイル発射するなんて朝飯前だ。すごいぞARIIA! ただ、そんなことができるんなら、ついでにそれをホワイトハウスに突っ込ませればいいんじゃね? Jerryを連れてきたいんだったら、劇中に脅されてるか共感してるかなんか知らんけど協力者も出てくるんだから、そいつらに拉致させればいいんじゃね? まあ、とにかく、ジャンルものの脚本のための脚本としか言いようがない、点と点のつながりに論理が完全に欠如している話である。
それからARIIAの造形だが、なぜかスーパーカミオカンデみたいな空間の中で、アームにつながれた「顔」的なものが移動している。なんなの? ニュートリノとか観測しちゃうの? そして、最後は、その「顔」的なものに鉄棒ぶち込んだら、電源が全部落ちて沈黙というよくあるパターン。ちょっと、いいかげんその対人インタフェイスの部分が本体、みたいな幼稚なコンピュータ観やめない? あと、なんか計算するときに、画面に数字とか文章が「ティリリリ・・・」って出るのとか。うちのパソコンでもそんな音しないんだけど。