Arthur Penn監督『Bonnie and Clyde』

俺たちに明日はない [Blu-ray]

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1967年の米国映画。
これ観て、主人公の二人かっけー、と思う人はいないだろう。実際全然かっこよくないし、こんなイライラ人生嫌だと思う。ただ映画としてはかっこいいと思う。
この映画は、一つのメインテーマと、一つのサブテーマから成っている。メインテーマは、要するにBonnie Parkerの欲求不満と、その解消への期待と、期待が外れることから来る不満の倍増と、それにふさわしい派手な最期という、つまりはセックスの寓話だ。
退屈な日常に倦んでいたBonnieの前に現れた刑務所帰りのClyde。「銃」や「強盗」というキーワードで昂ぶるBonnie(もちろんそれらはペニスやセックスのメタファー)。調子に乗ってしょぼい個人商店に強盗に入ってみせるClyde。「これは本物だわ!」とさらに昂ぶるBonnie。ところが実はインポで勃たないClyde。「銀行強盗とかマジ余裕」というので期待するBonnie。倒産して空っぽの銀行に知らずに押し入るマヌケなClyde。どうしても勃たないClyde。勃たないくせにウザイ兄夫婦にはサービス満点のClyde。マジでウザイ兄嫁。やっと勃ったと思ったら童貞で下手なくせに「よかった?ねえよかった?」とかしつこいClyde(ここはちょっと想像の産物)。そうして欲求不満がたまりこんで膿み出した体に、警察がやっと撃ち込んでくれる何十発もの銃弾。
だからこの映画はラストシーン以外はまったく痛快活劇ではない。また、もしこれがHappy ever afterだったとしたら、そのhappyはかりにClydeのものであったとしても、Bonnieのものではありえない。BonnieにとってはBoring ever afterしかあえりえないわけだ。それもこれも、Clydeという偽物のヒーローについてきてしまったのが運の尽き。
他方、サブテーマというのは、C. W. Mossの成長物語だ。上記のとおり、Clydeがどうしようもないバカにしか見えない(Warren Beattyの顔がいい感じにバカ)のに対して、クルマ係のC. W. Mossは、頭の弱いガキの役なのに、なんかすごいなこいつ、と思わせるものがある。ガソリンスタンドでの登場シーン、リクルートされて見せる表情と動作が最高。負傷したBonnieとClydeを乗せて自分の実家に連れて帰るまでのシーンとか、甘えたムニャムニャ声ながら、父親に反抗するときの確信めいた声と表情。たぶんこの映画の登場人物で一番、というか唯一かっこいいのはこのC. W. Mossだと思う。