Stanley Kubrick監督『Full Metal Jacket』(邦題:フルメタル・ジャケット)

フルメタル・ジャケット [Blu-ray]

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海兵隊ではトイレのことをheadというそうな。昔から船のトイレは船首にあったからとのこと(波が洗い流してくれるというわけ)。前半のクライマックスが、訓練所内のhead。洋式便器が、相互の仕切りもなくずらーっと並んでいる。みんなでしゃべりながらぶりぶりうんことかするんだろうか。使用中のシーンがあれば、それはもう映画史に永久に刻み込まれたシーンになったであろうに、残念。
大方の意見と相違なく、私も前半が最高だと思った。もちろんPyleの表情だが、狂気を示していく様子よりも(もちろんそれもすごいのだが)、一番最初の、にやけ顔を咎められてやめようとするのにできないところが本当に素晴らしく、あとはもうPyleの顔にしか目がいかない。Pyleが目立ち過ぎて、他の人はみんな同じ顔に見えてくるくらい。
なので、後半になってPyleが消えてからの展開は、何が起ころうと「普通」な感じしかしなくなっている。うん、普通の戦争映画だよねー、という感じ。もしかしたら後半だけ独立に観れば、それなりに「異常」なものとして見られるのかもしれないけど、この順番で配置されていると、どうしても異常感、ハレの感じがしない。自軍の兵士がヘリから現地の女子供を「Get Some!」と数えながら撃ち殺していても、味方が敵の凄腕スナイパーになぶり殺しにされていても、その凄腕スナイパーが実は年端のいかない少女だったとしても、それを撃った見方が馬鹿みたいにはしゃいでいる横で瀕死の少女が「Shoot Me」を呪文のように連発していても、まあ戦争だからね、そういうこともあらあね、と思ってしまう。そうそう、そうやってみんなでミッキーの歌うたうといいよね。ああ戦争だ戦争だ戦争映画だなあ、と。
それよりPyleだよPyle。Pyleが戦場にまで来ていたらどうなっていたかなあ、わくわく。人間の異常さの限界まで見せてくれただろうになあ、残念だよー。
というふうに、前半のあまりの異常さが後半を凡庸に見せ、後半の凡庸さによって前半の異常さがまた引き立ち、それによって実際の戦争の、異常性ではなく日常性が強調される。そしてそれは、戦争の真実をある意味で映し出しているのではないかと思う。