クリント・イーストウッド監督『硫黄島からの手紙』

硫黄島からの手紙 [Blu-ray]

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栗林中将はいい人としては描かれているが、英雄とか有能な指揮官としては描かれていない。
西中佐もいい人なだけで戦功については言及がない。
淡々としていて、かつ基本的にはクリシェ
一見勇ましい伊藤はやっぱり口だけ野郎だったし(しかし獅童はむかつく役が合うなあ)、憲兵出身の清水はやっぱりスパイなんかではなくてやさしい心を持っているがゆえに憲兵を馘首になっていた。こういうのは出てきた瞬間にわかることで、期待は外れない。
変なのは主役の西郷で、なぜか、果たして西郷はこの激戦から生きて戻れるのか、といったサスペンス感は全くない。厭戦ぽいけど、真面目に厭戦している感じでもない。何考えてるのかわからんという感じ。ああだから、サスペンス感がないというよりは、サスペンドしてることに気づかないくらい最初から最後まで宙づりな感じというか。
わずかに得られるカタルシス(つまり足が地に着く感じ)は、西郷が米軍の捕虜となって担架で運ばれた後、夕陽を見てちょっと微笑むところ。
父親たちの星条旗』の方もそうだったが、36日間の長期戦という感じがあまりしない。それから、西郷役の二宮和也が、やっぱどうしても子供に見えてしまう。女房子供がいるようにはどうしても見えない。ちなみにエンドクレジットで初めて、この人の名前が「かずや」でなくて「かずなり」だということを知った。
なお、『星条旗』の方と違って、日本人が殺されていくのを観ているのは結構厳しかった。ずっとしかめっ面で泣きそうになりながら観た。それから、一番怖かったのは手榴弾での自決のところ。ピンを抜いてメットに叩きつけて両手で胸の前へ持って行って爆発、というタイミングがほんとに怖い感じで(つまりなんかその場にいたら自分もやってしまいそうな感じで)秀逸な演出だったと思う。