Cohen Brothers監督『No Country for Old Men』 (邦題:ノーカントリー)

ノー・カントリー スペシャル・コレクターズ・エディション [Blu-ray]

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No Country for Old Menということで、Old Men代表のトミー・リー・ジョーンズ=ベル保安官が、もうほんとに見事なほどに、事件の解決にも話の展開にも、まったく役に立っていない。老保安官が旧世代には理解不能な犯罪に翻弄されつつ・・・みたいな設定ですらなく、最初から最後まで、何が起こっているのか、自分が事件にどのように関与しているのか、まったく理解できていない(というか関与していないと言った方が正確)。
他方で、ハビエル・バルデム演じるこの世のものとは思えない顔つきの殺し屋シガーの方は、しかし、俗世の欲望から超越した殺人鬼という〈概念〉自体は全然新しいものではないのであって、何といっても顔、身のこなし、それから武器(あの空気銃はほんと怖い)を持つことによるその具現化こそが素晴らしいわけだ(だからこの〈概念〉の方を評価している評論というのは完全に的外れだろう――偶然と自由意志のテーマ(最後のコイントスと事故のとこ)を含めたとしても)。
なので、殺し屋シガーに遭ったこともないベル保安官が、どんなに「最近の犯罪は自分みたいな年寄りには扱えないからもう引退だ」とか言ってみても、それに観客が共感することもない。正直、「トミーいらなくね?」というのが正しい感じ方だと思う。はっきり言って、「いい味だして」すらいないし、日本人としては「ていうかお前宇宙人だろ」とか思いっぱなし。
こうしたことすべてを象徴するのが、終盤の、シガーが隠れている部屋に保安官が入っていく場面。観ている者としては、「お、ようやくトミーに活躍の場が!」とか思うにもかかわらず、シガーはドアの陰に隠れたまま。銃撃戦もなければ殺してももらえない。全然相手にしてもらえていない。
そういうトミー・リー・ジョーンズの扱われ方が、まさしくNo Country for Old Menな感じいっぱいで、この、あらゆる意味で「いらない子」という性質をもって主役にするというのが、この映画全体のテーマ的な冒険なんだろうと思う(なので、いいテーマだなとは思わない。だっていらない奴なんだから。)。