ノア・バウムバック監督『イカとクジラ』
- 出版社/メーカー: ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
- 発売日: 2008/12/19
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まず私は全然笑えなかった。笑えるような演出じゃないと思う。痛い人が出てくるからといって、必ず苦笑できるわけではない。
次に泣けるかというと、まあそんなシーンは一つもない。そういうカタルシスとは無縁の展開。
- 父親は社会的にも不成功、ケチ、教え子に手を出してかつ捨てられる、どうしようもないダメ男。加えて、そのことに気づいておらず知的なプライドばかり高い。離婚した妻を貶めることで、子供の歓心を買おうとする(もちろんそれが正しいと思っている)。
- 母親は社会的には成功。離婚後は女性性を解放し(ただし知性の範囲内で)、かつその正しさを子供に納得してもらおうとする。
- 兄(16歳)は、父親の受け売りと、ピンクフロイドからのパクリで学校内での成功を得ようとする。恋人を傷つけるようなことを言って、やはりそれが悪いことだと気づかない。
- 弟(12歳)は、家では酒を飲み、学校ではオナニーして、精液を図書館の本の背表紙とか好きな子のロッカーになすりつける。
全員が、自分たちのダメさに「気付いてない目」をしていて、それが痛くて笑えない。最後まで両親の間の問題が解決する兆しはまったくない。結局、家族問題というのは全体としては決して解決しない問題であって、むしろ子供が、そのことを諦念をもって認めるという意味での成長だけが唯一ありうる解決だ、ということを示すのがラストシーンのイカとクジラ。