郷原信郎『思考停止社会』

思考停止社会~「遵守」に蝕まれる日本 (講談社現代新書)

思考停止社会~「遵守」に蝕まれる日本 (講談社現代新書)

真のコンプライアンスとは、所与の法令を「遵守」することではなく、その法令がどのような「社会的要請」に応えるためのものかを考えて臨機応変に対応することだ、という。complyする相手は法令そのものではなくて、その法礼を一つの手段として実現されるべき社会的要請の方だという議論。
ちょっと気になるのは、「立法趣旨」とか「立法目的」と言っておけばいいところで、「社会的要請」というちょっと胡散臭いものが登場していること。おそらく、法令以外のコンプライアンス手段の存在可能性を担保するための一般的な用語選択なのだと思うが、立法の趣旨・目的なら、所与の法令に対して、比較的明確に定めることができるのに対して、そういうのから独立に定義される社会的要請なるものが、いったいどうやって知りうるのか(というかそもそもどうやって概念化されるのか)が不明。
下手をすると、どんな法令も、必ず何らかの「社会的要請」に応えているという、昔のダメな機能主義理論みたいなことになってしまう危険がある。
もう一つ言うと、法令遵守を印籠に譬えるのであれば、遵守万歳で黄門様とか助さん格さんになって、人をひれ伏させて喜んでいる人の存在、その欲望についても、論じていけるのではないかと思った。これはただ「思考停止」と言っただけでは生ぬるい現象だろう。