内藤朝雄『いじめの構造』

いじめの構造―なぜ人が怪物になるのか (講談社現代新書)

いじめの構造―なぜ人が怪物になるのか (講談社現代新書)

本書には何一つ新しい知見はない。いじめで苦しんだ者なら誰でも知っていることしか書かれていない。自分を苦しめる人間を「友達」と呼ぶように強いる「学級」のしくみ、同級生と仲良くできること(だけ)が成功だとする現実離れした「理想」が、諸悪の根源だということなんて、中学生だって(特にいじめられた経験がある人は)知っている。
にもかかわらず、誰もこの周知の事実を書いてくれなかった。そこに内藤朝雄の仕事の存在価値が生まれている。この人以外のいじめ論で、本なら最後まで読みとおせたり、テレビなら途中でチャンネルを替えなかったものはほとんどない。論者のあまりの無知さ(と無恥さ)にムカついて絶望感でいっぱいになるからだ。その意味で、この人の本はすばらしい。
他方で、本書(やこれまでの著書)で呈示されている理論、「群生秩序」とか「中間集団全体主義」といった概念、それによって分析してみせた図式などが評価されているのを見ると、ちょっとまた絶望感が頭をもたげてくる。結局、そういう形で書かなければならなかったということは、こういう客観的(な言語で語られた)分析でないと、事情を理解できない人間が、特に知識人層にたくさんいるということを示しているわけだから。そういう人たちが、本書に(語られず)示されている事態を、本当に直観的に理解できているのか、そういう疑問がわいてくる。
しかし、道はどうあれ、本書の提言が実現されればいい、ともいえる。それは、すごく希望。
あとは、教師というのがどうしてああいう感じになってしまうのか、それを知りたい。(まあ、ああいうのを「教育的配慮」と教わってるんじゃあ、しかたがないよね。しかし典型的だなあ。)