水月昭道『高学歴ワーキングプア――「フリーター生産工場」としての大学院』

高学歴ワーキングプア  「フリーター生産工場」としての大学院 (光文社新書)

高学歴ワーキングプア 「フリーター生産工場」としての大学院 (光文社新書)

演習第一回用に風呂で。
著者はもうなんか夢の世界に旅立ってしまっていて、現実的な対策が考えられなくなっている模様。
だって、ワーキングプアっていうのは「働けど働けど・・・」ってやつですよ。だけど博士課程出身の未就職者が貧しいのは、働いてないからでしょうが。本書に出てくる和田さん(p. 108)、非常勤1コマ7000円で週4コマ、月11万円ちょっとにしかならないので時給850円のバイトで6万円補填していたと。ええ、ええ、大変でしょうよそりゃね。でももし非常勤が週10コマあれば――月28万円ですよ。私の月給と変わらんじゃないか(もちろん手取りじゃないよ)。コンビニのバイトなんかする必要ない。しかも、会議も学内事務も学生指導もなく、授業やりっぱなしでいいんだぞ。なので、現実的な対策は、非常勤もっとやらせろ、ってことになるはず。(ところで7000円ていうのはちょっと安いほうかとも思う。)
なのに著者は、そういう講義のアウトソーシングを批判して、講義はその大学の専任教員が行うべきだと言う。もうね、あほかばかかと。そう言えば専任のポストが増えるとでも思っているのか。無理言うな。むしろ専任の授業負担を減らして非常勤を増やせ、と言うべきだろうが。
仮に非常勤のポストが一定なのだとしても、まだ対策はある。非常勤というのは未就職者だけがやっているわけではない。むしろ多くは、すでに専任で安定した職についている人が別の大学に出張してやっているのであって、この人たちにご遠慮いただいて本務校でのお仕事にご専念いただくなら、非常勤のコマは一気に増えるだろう。准教授とか教授の非常勤代は未就職者よりも高いので、雇う側としてもそうすべき理由はあるはず。
もう一点、最後の方で、著者はそれでも大学院には魅力がある、とか言っている。曰く、物の見方が変わる、コミュニケーション能力が身につく、「生き抜く知恵と自信」が得られる、などなど。あのね、学部卒就職組の人はね、そういうの、ちゃんと毎月給料もらいながら身につけてるの! 年に何十万も授業料払って身につけるようなもんじゃないの!
ちなみに、私の出身研究室ではポスドクはもちろん、非常勤やってる、っていうだけで「勝ち組」という感じだった(自分が勝手にそう思っていただけかもしれないが)。新聞とかでポスドク=不安定雇用が問題視されているのを見ると、その下にポスドクにもなれず、非常勤もまわってこない人たちがいるという現実が隠蔽されているようで、すごく違和感を覚える。