前へならえ

 「ならう」というのは「倣う」で「真似をする」という意味であり、「前へならえ」とは「直下に伸ばした両腕をそのまま肩を中心に前に90度回転させろ」という意味ではなく、「前の者と同じことをしろ」という意味の命令である。
 この点から見るに、小学校や中学校でやらされた「前へならえ」は、次の二つの点で間違っている。
 第一に、最前列の者は腕を前に上げていないことが通常である。この場合、2列目の者は「何もしない」のが正しい「前へ倣う」である。その後ろの者も同じであるから、結局、全員について腕は上がらないのが正しい。
 第二に、「前へ倣う」ためには(1)「前の者の動作を確認する」、(2)「確認したのと同じ動作をする」の2ステップが必要であり、これには時間がかかる。それゆえ、正しくは(最前列のものも含め)前列から順に腕が上がっていくのでなければならない。ところがやはり教師の指導が「全員が同時に一糸乱れぬ動作をする」という誤った理想に基づくものであるため、生徒たちは予め決まった動作を前の者の動作を確認せずに行ってしまう。これではまったく「前に倣った」ことにならない。
 根本的な問題は、教師が「前へ倣え」という一つの命令で済まそうとしているところにある。正しくは、まず最前列の者にたとえば「腕を90度前に上げよ」という命令を発し、その後2列目以降の者に「前へ倣え」という命令を発するべきである。
 当然であるが「小さく前へ倣え」などという無意味な命令は直ちに廃止しなければならない。